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東京地方裁判所 昭和41年(行ウ)40号 判決

原告 セントラル紙化工業株式会社

右代表者代表取締役 青木武彦

右訴訟代理人弁護士 宮本佐文

同 石井芳夫

被告 東京都北税務事務所長 宮田堅城

右指定代理人 竹村英雄

〈ほか一名〉

主文

原告の第一次請求を棄却する。

被告が原告に対し昭和四〇年一二月二三日付でした原告の昭和三四年一〇月一日から昭和三五年九月三〇日までの事業年度分の法人事業税、都民税の更正および事業税過少申告加算金の決定の各処分は、これを取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立て

原告

第一次請求の趣旨

「被告が原告に対し昭和四〇年一二月二三日付でした原告の昭和三四年一〇月一日から昭和三五年九月三〇日までの事業年度分の法人事業税、都民税の更正および事業税過少申告加算金の決定の各部分は、いずれも無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。

第二次請求の趣旨

「被告が原告に対し昭和四〇年一二月二三日付でした原告の昭和三四年一〇月一日から昭和三五年九月三〇日までの事業年度分の法人事業税、都民税の更正および事業税過少申告加算金の決定の各処分は、これを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。

第三次請求の趣旨

「被告が原告に対し原告の昭和三四年一〇月一日から昭和三五年九月三〇日までの事業年度分の法人事業税、都民税および事業税過少申告加算金について徴収権を有していないことを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。

被告

「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

第二原告の請求原因

一  被告は、昭和四〇年一二月二三日付で、原告に対し、原告の昭和三四年一〇月一日から昭和三五年九月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)分の法人事業税、都民税について各更正処分を、法人事業税の加算金の決定処分をしたが、右各処分による法人事業税の増差税額は金二、七六八、二四〇円、法人事業税の過少申告加算金は金一三八、四一〇円、都民税法人税割額の増差税額は金一、三二〇、六二〇円である。

二  原告は、昭和四一年一月二六日、右各処分について東京都知事に対し審査請求をしたところ、同知事は、同年二月一九日付で右審査請求を棄却するとの裁決をし、そのころ、これを原告に通知した。

三  しかし、右各更正処分は、地方税法(昭和三八年法律第八〇号による改正前のもの、以下同じ)一八条の規定により、徴収権が時効により消滅した後になされたものであって違法であり、したがってまた、右法人事業税の過少申告加算金の決定も違法であって、その瑕疵はいずれも重大かつ明白である。

四  よって、原告は、第一次的に前記各処分が無効であるとの確認を求める。仮りに右各処分が、無効でないとしても違法であることは明らかであるから、第二次的にその取消しを求める。仮りに右の請求がいずれも失当であるとしても、被告は原告の本件事業年度における右各税および加算金の徴収権を有していないにもかかわらず、原告に対し滞納処分をするおそれがあるから、原告は、第三次的に被告が原告に対し右各税および加算金の徴収権を有していないことの確認を求める。

第三被告の答弁

(認否)

一  請求の原因第一項および第二項の事実を認める。

二  請求の原因第三項および第四項の主張を争う。

(主張)

一  本件各処分の経緯について

原告は、その本件事業年度の法人事業税等について、昭和三五年一一月三〇日、被告に対し、所得額四、〇九五、〇〇〇円を課税標準とする法人事業税額四二六、四〇〇円、法人税額一、六五〇、三〇〇円を課税標準とする都民税法人税割二二二、七九〇円、同均等割額三、〇〇〇円である旨確定申告をした。そして、その後昭和四〇年一〇月二五日にいたり、右事業年度分の法人税について王子税務署長に対し、所得金額二七、一六三、七八九円、留保所得金額一二、一〇五、二〇〇円、これらに対する法人税額一一、四三二、七二〇円との修正申告をしたが、被告に対する法人事業税等の修正申告はしなかった。

ところで、被告は、同年一一月一〇日、法人税課税資料を調査した結果、前記法人税に係る修正申告の事実およびこれに対する税務署の是認処理の事実を知ったので、右法人税に係る修正申告に基づき、昭和四〇年一二月二三日付で法人事業税等につき本件各処分を行ない、これを原告に通知した。

二  本件各処分の適法性について

1 法人事業税の更正は、昭和三〇年法律第一一二号による改正後の地方税法七二条の三九第一項の規定に基づくものであるが、同条項によれば、申告書等を提出した法人の当該申告に係る事業税の課税標準である所得等が、法人税の課税標準とされた所得等を基準として算定した事業税の課税標準である所得税等と異なることを発見したときに事業税の更正をすることができる旨定められている。本件の場合、原告が法人税について修正申告書を提出し、その結果、法人税の課税標準である所得と事業税の課税標準である所得とが異なることとなったため、事業税の更正をなしうることとなったのである。

ところで、地方税法七二条の三九第一項の規定は、国税の課税標準等に準拠して地方税の課税標準等を算定するものとする考え方に立って規定されているのであって、被告は、同法七二条の四一に規定する法人に対するものを除き、原告のような事業を行なう法人に対しては法人税の課税標準等を基準にしないで自主的に更正することはできず、ただ同法七二条の四〇に規定する特定の場合において、国の税務官署に対し更正等の請求をなしうるにすぎないのである(昭和二九年八月一三日法律第九号による改正前の地方税法七六二条の二の規定によれば、被告は独自の調整に基づき事業税の課税標準等の更正をすることができたのであるが、右の改正により、被告はその自主的な更正をすることができなくなった。)。すなわち、法人税につき税務官署によって更正もしくは決定が行なわれるか、または納税義務者が税務官署に確定申告もしくは修正申告をしてはじめて更正をなしうるにすぎない。したがって、法人税の修正申告に係る課税標準を基準とする法人事業税の更正を行なう被告の徴収権の消滅時効の起算日は、右修正申告書の提出された日の翌日と解すべきである。本件において、原告が、本件事業年度の法人税につき王子税務署長に対し修正申告書を提出した日は、前記のとおり昭和四〇年一〇月二五日であるから、法人事業税の更正を行なう権利の消滅時効の起算日は同月二六日であって、時効期間の満了は、これより五年後であるから、同年一二月二三日付で行なった法人事業税の更正が適法であることは明らかである。

2 都民税法人税割の更正は、昭和三八年法律第八〇号による改正前の地方税法五五条一項の規定に基づくものである(もっとも右法律第八〇号による改正前の地方税法五五条一項は昭和三七年法律第六七号によっても一部改正されたが、この改正は原告の本件事業年度に係る都民税法人税割について適用される地方税法の規定の根本趣旨に、なんらの影響をおよぼすものではない。)。

ところで、都民税法人税割は国税たる法人税額を課税標準として算定するものであるから、都民税法人税割の更正は、都民税の申告書に記載された法人税額等と法人税法の規定により申告、修正申告または更正、決定された法人税額等とが異なることを発見したときになしうる。すなわち、法人税額をそのまま課税標準とする都民税法人税割は、法人税の更正もしくは決定が行なわれるか、または納税義務者が確定申告もしくは修正申告をなすまでは、その更正をすることができないのである。したがって、法人税の修正申告に係る法人税額を課税標準とする都民税法人税割の更正を行なう権利の消滅時効の起算日も、法人事業税の場合と同様、右修正申告書が提出された日の翌日であると解すべきである。本件において、原告が、法人税につき王子税務署長に対し修正申告を提出したのは、前記のとおり、昭和四〇年一〇月二五日であるから、都民税法人税割につき更正を行なう権利の消滅時効の起算日は同月二六日であって、時効期間の満了はこれより五年後であるから、同年一二月二三日付で行なった都民税法人税割の更正は消滅時効完成後になされたものではないことが明らかである。

3 法人事業税過少申告加算金の決定は、地方税法七二条の四六の規定に基づき、法人事業税の不足税額に対してなされるものであるから、前述のとおり法人事業税の更正が適法である以上、違法でないことはいうまでもない。

4 地方税法は、昭和三八年四月一日法律第八〇号の改正によりあらたに地方税の更正、決定等の期間制限の規定を設け、地方税の更正、決定等は、原則として「法定納期限の翌日から起算して三年を経過した日以後においてはすることができない。」(一七条の五第一項)こととしたが、事業税および都民税所得割のように国税に準拠して、更正、決定等が行なわれるものについては、特例として、所得税または法人税について更正または決定があった場合、あるいは所得税または法人税に係る期限後申告書または修正申告書の提出があった場合にはその更正または決定の通知が発せられた日、あるいは申告書等の提出があった日の翌日から起算して二年間は更正、決定等ができることとした。また、更正、決定等の期間制限の規定に対応し、地方税の消滅時効の規定も改正され、地方税の徴収権は、原則として、「法定納期限の翌日から起算して五年間行使しないことによって時効により消滅する」(一八条一項)としたが、右期間制限の規定の特例にあたるものについては、消滅時効についても、おおむね特別規定を設け、事業税および都民税のように国税に準拠して、更正、決定等が行なわれるものについていえば、前記期間制限の起算日と同様に、法人税に係る期限後申告書または修正申告書の提出があった場合には、その提出があった日の翌日から起算して五年で消滅時効にかかるものとした(一八条一項一号)。ところで、前記更正等の期間制限および徴収権の消滅時効に関する現行規定は、前記改正前の地方税法一八条一項にいう「これを行使することができる日」を具体的に明文化し、かつ、更正等をなしうる期間については、これを短縮したものであって、その基本的な考え方においては、右改正前と改正後とでなんら異なるところはない。なお、賦課権(前記の更正、決定等はこれにあたる。)を行使しうる期間と徴収権の消滅時効期間とは、観念的には区別されるものであるが、前記の改正前においては、規定上区別されていなかったので、解釈上、広義の徴収権の中には賦課権も含まれるものと解され、これを行使しうる期間(除斥期間)も五年とされていたのである。本件各処分は、原告が法人税に係る修正申告書を税務官署に提出した日の翌日から起算して約二ヶ月後になされているのであるから、右改正後の地方税法の規定に照らして適法であることはもちろん、改正前の地方税法に照らして(原告の本件事業年度に係る法人事業税および都民税法人税割については、改正前の地方税法の規定が適用される。昭和三八年四月一日法律第八〇号附則六条)も適法である。

第四被告の主張に対する原告の反論

一  被告主張の事実中、原告が本件事業年度の法人事業税等について、被告に対し、被告主張のとおり確定申告をし、その後被告主張の日に王子税務署長に被告主張のような内容の修正申告をしたが、被告に対しては修正申告をしなかったことは認める。

二  被告は法人事業税および都民税法人税割の更正は、法人税の更正または決定が行なわれるか、または納税義務者が税務官署に確定申告もしくは修正申告をなしてはじめてなしうるにすぎずそれ以前にはなしえないと主張するが、右主張は失当である。すなわち、法人事業税、都民税法人税割についての決定は、法人税についての更正または決定が行なわれず、また納税義務者が税務官署に申告をしなくてもこれをなしうるのであり(地方税法五五条二項、七二条の三九第二項)、法人事業税の課税標準、法人税額を課税標準として算定すべき都民税の法人税割額についての被告主張の規定は、法人事業税の課税標準である所得の計算および都民税法人税割額の算定の基礎となる法人税額の計算をなすにあたっては、法人税の課税標準を計算するのと同様にしてこれを算定する旨の規定であり、被告主張のように、法人事業税の課税標準等を具体的に算定するについて、必ず法人税について申告あるいは更正または決定を前提としなければならないというものではない。

三  本件事業年度に適用さるべき地方税法(昭和三八年法律第八〇号による改正前のもの)一八条一項の消滅時効に関する規定は、昭和三四年法律第一四九号による改正前の地方税法一四条一項の規定では消滅時効の起算日が明らかでなかったので、この点を明確にしたものである。そして同条項にいう地方税の徴収権は、抽象的租税債権である課税権と具体的租税債権である徴収権の両者を含むものと解される。したがって、被告が原告に対してその本件事業年度の法人事業税、都民税法人税割および法人事業税過少申告加算金の課税権を行使することができる最初の日は、法人事業税および都民税の確定申告書の提出期限である昭和三五年一一月三〇日である。けだし、原告は、その本件事業年度の所得の全部についての法人事業税、都民税法人税割を、原則として前記昭和三五年一一月三〇日までに申告納付しなければならず、したがって被告は、右の日に原告の本件事業年度の所得全体(申告に係ると否とを問わず客観的に生じた所得)に対する前記法人事業税等の徴収権を行使することができるからである。それゆえ、右の徴収権は、昭和三五年一一月三〇日から五年を経過した日である昭和四〇年一二月一日に時効により消滅したものといわねばならない。

四  昭和三八年四月一日法律第八〇号の改正による現行地方税法一八条一項は、被告主張のように、法人税について更正または決定があった場合には、当該処分の通知が発せられた日、法人税に係る期限後申告書または修正申告書の提出があった場合には、当該提出があった日の翌日をもって消滅時効の起算日とすることとしたが、この規定は、被告主張のように単に右改正前の同条の解釈を明文で明らかならしめたというものではなく、むしろ創設的な規定と解すべきものである。このことは、同条の改正規定は、実質的に消滅時効期間を伸長するものであり、課税権者に有利、納税義務者に不利な規定であるから、租税法律主義の見地から、右改正前の規定は改正後の規定と異って、法人税についての更正、決定、同税に係る期限後申告書または修正申告書の提出は、消滅時効の期間を延長するものではないと解すべきものである。

五  地方税法は、前記昭和三八年法律第八〇号による改正前も、改正後も七二条の七第一項で、都道府県の徴収吏員は、事業税の賦課徴収に関する調査のために必要がある場合においては、納税義務者または納税義務があると認められる者に質問し、事業に関する帳簿書類、その他の物件を検査しうる権限を有するとし、同法七二条の八は右の質問に対する答弁を拒んだり検査拒否をしたような場合にはこれに対して刑罰をもってのぞんでいるのである。このことは、地方団体は、国の税務官署とは別個に独立して地方税を賦課し徴収する権限を有し、税務官署の具体的な処分あるいは納税義務者の申告を基礎としなくても、独自の調査に基づき認定した課税標準等により賦課処分をなしうることを示すものと解すべきものである。

六  被告は、地方税法七二条の四〇に規定する特別の場合にのみ国の税務官署に対して更正等の請求をなしうるにすぎないから、被告において自主的な処分をすることはできないと主張しているが、しかし、同法七二条の四〇第一項三号の規定は、都道府県が、事業を行なう法人で事業税の納税義務があるものの事業税にかかる所得等を更正または決定した場合に、その同一事業年度分の法人税の課税標準についての税務官署の更正処分が、都道府県の事業税についての処分日から一年を経過した日までに行なわれないときに、税務官署に対して更正等の請求をすることができる旨を定めているのであるから、都道府県の事業税にかかる処分が、税務官署の処分に先行することのあることは、当然予定されているものといわねばならず、したがって、都道府県は、事業税の課税標準の認定、賦課処分等を自主的になしうるものである。被告の前記主張は、地方自治の本旨あるいは国税に対する附加税の禁止という点からしても失当であり、地方団体は、独自の調査によって事業税等の賦課処分等をなしうるのは当然というべきである。

証拠関係≪省略≫

理由

一  原告が本件事業年度の法人事業税等について、昭和三五年一一月三〇日被告に対し、所得額四、〇九五、〇〇〇円を課税標準とする法人事業税額四二六、四〇〇円、法人税額一、六五〇、三〇〇円を課税標準とする都民税法人税割二二二、七九〇円、同均等割額三、〇〇〇円である旨確定申告をしたこと、その後昭和四〇年一〇月二五日にいたり、原告は、右事業年度分の法人税について、王子税務署長に対し、所得金額二七、一六三、七八九円、留保所得金額一二、一〇五、二〇〇円、これらに対する法人税額一一、四三二、七二〇円との修正申告をしたが、被告に対する法人事業税等の修正申告はしなかったこと、被告が原告に対し、昭和四〇年一二月二三日付で、原告主張のような法人事業税、都民税についての各更正処分、法人事業税の加算金の決定処分をしたことについては、いずれも当事者間に争いがない。

二  被告は、本件法人事業税の更正は、昭和三〇年法律第一一二号による改正後の地方税法七二条の三九第一項の、また、都民税法人税割の更正は、同じ地方税法五五条一項の各規定に基づくものであるところ、法人事業税の更正は、法人税につき税務官署によって更正もしくは決定が行われるか、または納税義務者が税務官署に確定申告もしくは修正申告をしてはじめてなしうるにすぎず、また都民税法人税割は法人税額をそのまま課税標準とするものであるから、都民税法人税割の更正は法人税の更正もしくは決定がなされるか、または納税義務者が確定申告もしくは修正申告をするまではこれをなしえず、したがって法人事業税ならびに都民税の各更正を行う被告の徴収権の消滅時効の起算日は、原告が王子税務署長に対し、法人税についての修正申告書を提出した日の翌日と解すべきであると主張し、原告はこれを争うので、この点について判断する。

法人事業税および都民税法人税割は、地方税法七二条の二四ないし七二条の三三および同法五三条の各規定により、法人が申告して納付するいわゆる申告納税制度を採用しており、その更正および決定は、同法七二条の三九、五五条の各規定により申告、修正申告した所得の金額等が法人税について申告、修正申告した所得の金額等を基礎として算定した事業税等の課税標準である所得等の金額と異なる場合または法人税について更正もしくは決定があったのに事業税等について申告、修正申告がなかった場合等にすることができるものとされているので、法人事業税および都民税法人税割についての更正は、法人税について申告、更正等がなければなしえないものと解せられるのであるが、しかし、このことは法人事業税および都民税法人税割の徴収権の時効は、法人税について申告、更正等がなければ進行しないということを意味しない。なんとなれば、法人事業税および都民税法人税割の徴収の確保については、昭和三〇年法律第一一二号による改正後の地方税法には、七二条の四〇(都道府県知事の税務官署に対する法人税の更正または決定の請求)、六三条(都道府県知事の税務官署における関係書類を閲覧、記録する権利)、七二条の七(事業税に係る徴税吏員の質問検査権)、二六条(法人の都道府県民税に係る徴税吏員の質問検査権)の各規定が設けられているのであって、地方団体としては、国税たる法人税となんらの関係なく法人事業税、都道府県民税等の課税権を行使しうるというのではないけれども、これらによってすくなくともその課税権を行使しうる途が開かれているからである。したがって、地方税法一八条は、地方団体の徴収金の徴収を目的とする地方団体の権利は、これを行使することができる日から五年を経過したときは時効により消滅すると規定するところ、前記のように、法人事業税、都民税法人税割の徴収を目的とする地方団体の権利は、抽象的には法定申告期限の翌日からこれを行使しうるのであるから、右各税の徴収を目的とする権利は法定申告期限の翌日から起算して五年を経過した日に時効により消滅するものといわざるをえない。そうすると、本件の場合、本件各処分のうち法人事業税および都民税法人税割に関する更正が右各税の法定申告期限の翌日から五年を経過した後になされたものであることは当事者間に争いがないから、右更正は違法たるを免れず、右法人事業税の更正が適正な権限の行使であることを前提とする前示加算金の決定も違法であるといわなければならない。

被告は、昭和三八年法律第八〇号による改正後の地方税法一七条の五、一七条の六第二項を引用して法人事業税および都民税法人税割についての消滅時効の起算日は法人税についての申告、修正申告または更正、決定があった日の翌日であると解すべき旨主張するが、右昭和三八年法律第八〇号附則六条の規定および同法による更正等の期間制限の規定の制定の経緯等に照し、右改正後の地方税法一七条の五、一七条の六第二項の規定は本件各処分について適用または類推適用の余地がないものというべきである。

ところで、原告は、第一次請求として、本件処分が無効であることの確認を求めているが、本件処分は地方税の徴収権の時効消滅という地方税法上の微妙な解釈問題を含んでいるのであって、結局は前示のように被告の法律解釈は誤りであったとしても、右誤りは重大かつ明白なものということができないから、本件処分は当然に無効のものであるということはできず、したがって原告の本件第一次の請求は棄却を免れない。しかし、被告の本件処分は違法であること前説示のとおりであるから、その取消を求める原告の第二次の請求はその理由がある。よってその余の点の判断をするまでもなくこれを正当として認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条但書、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉本良吉 裁判官 高林克己 裁判官村上敬一は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 杉本良吉)

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